夜のカフェテラス


 白い光が辺りを包み込んだ。この混沌とした世界にある万物をも因果の生贄に捧げようと言わんばかりの深淵なる光は希望、あるいは絶望か。数多の民を導く神の権化と化した救世主・黒冥道は、その流麗なる双翼に、人々の希望、絶望、魂を一心に携えて豪傑な、それでいて神聖なる声を発する……。

 

「『天よ、我が刃に聖なる雷を!』だってよー。この小説の作者中二病なんじゃねぇの?」
「ちょっと小難しい文体だけでそう判断するのは早計だぞ?」
「だって見てみろよこの小説のタイトル。まじ笑えるっしょ」
 そう言うと上西は、『暗黒魔境からの来襲者』と書かれた、黒と紫の芸術が異様なまがまがしさを生み出している本の表紙を宮西に向けると、あきれた顔で宮西は返事をした。
「人のことは言えないぞ、ジョニー。お前だってたまにそんな言葉づかいしてるぞ」
「えっ、マジ!?」
 驚きを隠せないでいるジョニーこと上西は、いつもの如く宮西が冗談交じりに自分をからかっていると思い、焦りを隠すように、あるいは自分にはさぞ無関係かのように無自覚のまま言葉を発した。
「フッ、我としたことが現世なぞに失態を晒してしまっていたようだな」
「そのしゃべり方が中二病くさいんだよ」
「なに……。ちょっと自分の言動見直してみよっかな……」
 がっくりと首をうなだれつつ、自分に軽くショックを受けた上西は手に取っていた本を本棚へと戻した。そんな彼を気にもかけない様子の宮西が左手に付けた腕時計を確認したところ、現在18時半過ぎ。学校の授業が終わった放課後、上西が買いたい本あると言って宮西を誘い、少し近くにある参考書や児童書、小説から雑誌まで様々な種類の本が置いてある大きな本屋へと立ち寄ったのだ。入店してまもなく目的の本を買った後も店内をぶらぶらしている内に、いつの間にか時間が経っていた。宮西は面白そうな本がないか本棚を眺めている上西に喋りかけた。
「なあ、もうこんな時間だしそろそろ帰らないか」
「もうこんな時間かー。『ロリチョウ!』の最新刊も買ったし、今日は帰るとしますかね」
 さぞ買った本を早く読みたいのだろう。いつもならば、「ちょっとゲーセン寄っていかね!」などと、どうしてか街をぶらぶらしたがるはずだが、こうも素直に頷くとはロリチョウの力恐るべし。店の出口へと向かう間も通路に並べられている本に目を通しつつ、二人は店を後にした。
 5月とはいえこの時刻ともなると外は少し肌寒い。風が吹いていればより寒く感じただろう。本屋から二人の家はそれぞれ違う方向なので、今日はここでお別れである。
「今日は付き合ってくれてサンキューな」
「別にかまわないさ。放課後に友達と街をふらつくなんて青春じゃないか」
「だな。とりあえず帰ったらこいつを読破して、1巻からもう一度読み直すぞ!」
 まるでこの中に秘宝が入っているとでも言わんばかりに自転車のかごに乗せたかばんを叩きつつ、数時間後の自分を想像してにやけるジョニー。そんな浮かれ気分の上西に、まさか忘れているのではないかと心配になり言ってみる。
「本を読むのもいいけど、ちゃんと英文訳す宿題やってこいよ」
「あ、いっけね!忘れてた!あれ意外と時間かかるんだよなー。まあなんにせよ、ロリチョウを読んでから片付けますがね。ありがとう、宮西!そんじゃ、また明日なー」
「おう、また明日な。(……やれやれ、俺はなんでこんなやつと仲良くなったんだろうな)」
 と、矢継ぎ早にまくしたてて帰路へと向かった上西の背中を見送った宮西は、心の中でそのようにつぶやきつつも、自宅へと帰る自転車を漕ぐ速さがいつもより少し早い自分に気づき、3年間という短い高校生活が、慌ただしくも決して忘れられないひと時となることを予感した。

 

 高校生活初めての夏が、嵐と共にまもなくやってくる。


1/1

前へ    
トップページ

 
inserted by FC2 system